「あのころの二人」



今日は夫婦仲良く温泉デートの日。いつものようにプレヴィと手をつないで歩く。

こうして二人で歩いていると恋人時代を思い出すよね。

もう、ずいぶん昔の話になっちゃったけど・・・。


「あの頃の二人を思い出すね。」


不意に、私の気持ちを読み取ったかのようにプレヴィが言った。


あの頃の私は・・・


「・・・スズナ?」

「ねぇプレヴィ。初めてデートした時の事、覚えてる?」

「初めての?」

「そう。私たちが恋人同士になった日・・・」



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今日はいよいよプレヴィさんとデートの日。

昨日思い切ってデートに誘ってOKもらったの。

それだけでドキドキしてふわふわした気持ちになってしまったから、気を引きしめなきゃ。

でも・・・夕べは緊張してよく眠れなかったからなぁ・・・失敗しないといいけど・・・


「おはよう、スズナ。」

「サクラお姉ちゃん。おはよ」

「ずいぶん眠そうね?大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。早く支度しなきゃ。・・・ん?お姉ちゃん、この歯磨き粉変な味がするよ?」

「スッスズナ!?それ洗顔フォーム!!」

「う、うぇぇ・・・」



そんなこんなで待ち合わせの時間。・・・より少し早めかな?

鏡の前で最終チェックをする。

前髪、跳ねてない?

目の下にできちゃった大きな隈・・・隠したつもりだけど・・・目立たないかな?

お化粧初挑戦だけど、変じゃない?

どうしよう・・・プレヴィさんに「何それ!?」とか言われたら・・・

あ、でもプレヴィさんは優しいからそんな言い方はしないかな。

えっと・・・「それちょっと変わってるね。」とか?

「いつものスズナちゃんの方がスズナちゃんらしいよ。」とか、フォローしてくれたりして・・・うーん・・・。


プレヴィさんの表情も、話し方も、出会ってからたくさん見てきたつもりだけど、

これから会うプレヴィさんは私にとってまるで未知の人のようで、想像がつかなかった。


「スズナ、いつまで鏡見てるの?急がないと、待ち合わせに遅れちゃうわよ?」

「ママ。でも・・・」

「大丈夫、今日のスズナはとってもかわいいわよ。プレヴィくんのために一生懸命努力したんだから。

それがスズナをとってもきれいにしているわ。きっと、プレヴィくんも気づいてくれるわよ。

だから、いつも通りの笑顔でいなさい。それが一番よ。」

「そうだね・・・うん・・・」

「スズナ?そろそろ行かないと本当に遅刻しちゃうわよ!」

「あ!大変!い、行って来ます!!」


いつも通りが一番ってママは言ったけど今日は、今日だけはいつもよりきれいじゃないと駄目なの!

今日はスズナの気持ちを伝えるって決めたんだから・・・。



『初めて会った時からずっとお慕いしておりました。

これからは一人の女として私のことを見てほしいんです。

もしよろしければ、お付き合いしていただけませんか?』



よしっ!セリフは完璧!レディらしいでしょ?

「妹」は今日で卒業!私だってちゃんと女の子なんだって、知ってもらうの。

あとはこれの通りプレヴィさんに伝えるだけ・・・



「あ。」


プレヴィさんの笑顔を思い浮かべた所へ、その笑顔にぴったり重なるように本人が現れた。


「おはよう、スズナちゃん。」

「お、おはようございます。」


毎日プレヴィさんのことを考えていたけれど、やっぱり本物はかっこいいな・・・。

サラサラの髪にきりっとした眉、優しい青い瞳に、優しい声・・・。

背が高くて、小さいスズナの頭の位置に肩がくる。見上げないと表情も見えない。

ミダナァムの議員服がすごく似合ってる。


・・・私の、王子様。


「待たせちゃった?」

「いっいえ!全然大丈夫です!!」

「よかった。行こう。」

「はい!!」


プレヴィさんと並んで歩けるなんて・・・夢みたい。

顔、引きつってないかな?

これから自分が言おうとしていることを考えると、緊張しちゃって・・・

お話しながらタラの港へ向かった。

何を話していたかなんて、着いた頃には覚えていなかったけれど。


ようし・・・

「プレヴィさん。お、お話したいことが・・・」

「ん?何?」

プレヴィさんの優しい眼差しが私に向けられた。

心臓が高鳴る。

よ、よし・・・あのセリフを・・・

「ス、スズナは、あ、あの・・・わ、私・・・」

プレヴィさんの顔をまともに見られない。どうしよう。早く言わなきゃ。


「初めて会った時から・・・ずっと・・・」

言わなきゃ。


「ずっと・・・」

はやく。


「プレヴィさんのことが・・・」

あんなに完璧だったセリフは、もうすっかり頭から抜けていた。

もう駄目・・・

"コクハク"もちゃんとできないようなかっこ悪い女じゃ、プレヴィさんがOKしてくれるわけないよ・・・


「スズナちゃん・・・」


その時、プレヴィさんの大きな手が、私の頭を優しくなでた。

きっと、もうばれちゃってるんだ。

私がプレヴィさんを好きだってこと。

どうしよう・・・恥ずかしいよぅ・・・

この手のひらは、一体何を伝えてくれてるの?


”気持ちに答えられなくてごめんね”?

”まったくこれだから子供はしょうがないなぁ”?


暖かいプレヴィさんの手のひらに、感情が高ぶる。

景色がにじんで・・・熱い涙が頬を伝った。



・・・泣いてちゃ駄目!



例え断られてもこの気持ちだけは、今日伝えるの・・・

ちゃんと言わなきゃ・・・!


「プレヴィさんが・・・好きです・・・!」


涙をぽろぽろ流したまま、しっかり目を見て言った。


「・・・大好き・・・です。」


私、こんなにもプレヴィさんが好きだったんだ・・・。

せっかく用意したセリフ、無駄になっちゃった。

でも、上品に飾ったどんなセリフよりも、私の気持ちが伝えられた。

だから、今プレヴィさんがどんな言葉を返そうとも、きっと後悔はしない。

そう思って構えていると、プレヴィさんは優しく涙を拭ってくれた。


そして・・・



「僕も君が・・・スズナが、好きだよ。」





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「あの時はびっくりしたなぁ〜スズナ、急に泣き出すから。」

「だってぇ・・・」

「ははは。よく頑張ったね。・・・嬉しかった。」


プレヴィが私の頭をなでてくれる。

今は知ってるんだ。

これがあなたの親愛の印。あの頃と変わってない。

私の気持ちも、変わらずあなただけ。

過去も未来も、一緒にいる今この瞬間も、あなたといっしょならきっと、ずっと幸せ。


ね、プレヴィ?