僕とスズナの子供、ディランとタイガが生まれてしばらく経った日。
スズナは「体が軽くなったから散歩してくる」と言って朝早く元気に家を飛び出していってしまった。
まったく、母親になったというのに、相変わらずだ。
そんな妻を見送ると、僕はやっと眠った子供達のもとに行きその寝顔を見守ることにした。
しばらくするとモーティがミダショルグ邸を訪ねてきた。
「あ、おはよう。・・・スズナちゃんは・・・?」
「今、ちょっと出てるけど・・・。」
「・・・そう、これ、お祝い持ってきたの。」
彼女が手渡してくれたのは、ロン酒、デヴォニアン、ほろ苦い酒・・・
酒ばっかり・・・?
「あっ、私、スズナちゃんが妊娠中ずっとお酒が飲みたいってうなっていたから、早速と思って・・・。
デイジーと、三人で飲んで。」
・・・そんな事を影で言っていたのか。思わず笑ってしまった。
まったく仕方のない妻だ。
「・・・プレヴィもお父さんになったのね。・・・おめでとう。」
「ありがとう。・・・でも、なんだか実感がわかないんだ。
嬉しいんだけど、それで浮かれてばかりもいられないって言うか・・・父親として、さ。」
「本当よ。スズナちゃんに苦労かけないようにね。」
僕は今の生活に慣れるまでに時間がかかるような気がしていた。
子供の成長を楽しむ余裕もなく、せかせかと暮らしてしまいそうな・・・。
そう、自分がしっかりしなければという意気込みで・・・。
そんな僕の考えを見越したように、モーティが言った。
「でも、そんなにプレッシャーばかり感じなくて良いんじゃない?
あなたの人生なんだから。幸せなら・・・それで良いのよ。ね?」
モーティの言葉は不思議なほどに僕の心をとかしてくれる。
昔からそうだった。
相変わらずだな、君は・・・。
「・・・そうだな。」
肩の力が抜けたような気がした。
ありがとう、と言おうとした瞬間にモーティが少し顔を赤らめて話し始めた。
「あのね、プレヴィ。私・・・結婚するの。・・・ソノン君と。」
突然の知らせに、さすがに驚いてしまった。
「えっ!?あっ・・・そ、そうか!おめでとう!!よかったな。」
「うん。」
「・・・幸せに、なれよ。」
「・・・ありがとう。たまにはお互いのだんなの愚痴でも話に遊びに来るわ!」
「なッ・・・なんで愚痴なんだよ・・・」
「うふふ。じゃあね!本当におめでとう!!」
モーティは、本当にいい奴だから、きっとこれからもいい友達としてやっていける。
そう思った。
かつては苦しい恋愛を共にした仲だが、これからは互いの幸せを祈って生きていこう。
モーティとほとんど入れ替わりで、ソノン・プリシュケ君がやってきた。
「あ、こんにちは。あの・・・スズナちゃんは・・・?」
どうでも良いけどみんなスズナじゃなきゃ駄目なのか?くそぅ・・・
「いらっしゃい。スズナは今ちょっと出てるんだ。まぁ、ゆっくりしてってよ。」
「どうも。あ、これ、お祝いです。お子さんのご誕生、おめでとうございます。
たいしたものじゃないんですけど、みなさんで召し上がってください。
スズナちゃんには休んでもらって。」
彼が渡してくれたのは、手料理のようだった。
あ、そういえば、モーティの料理・・・というか家事全般・・・結構・・・ひどいんだよな・・・。
家事は彼の役目になるのか・・・。
「頑張れよ。」
「え?」
「あ、いや。・・・結婚するんだってな。モーティと。おめでとう。」
「はい!・・・彼女は僕が必ず幸せにします。
・・・今まで、彼女は苦しみすぎたから・・・。
これからはずっと笑顔でいられるように、僕がこの手で、守って行きます!」
そういって力強く言う彼の瞳に、僕は安心させられた。
「それじゃ、スズナちゃんにもよろしくお伝えください。」
「あぁ、ありがとう。」
ソノン君、君のおかげで僕もなんだか救われたような気がするよ。
ありがとう。・・・モーティを、絶対幸せにしてやってくれ。
・・・家事も頑張れよ・・・。
ソノン君と入れ替わりで、僕の一番苦手な人がやってきた。
「こんにちはー♪おじいちゃんでちゅよ〜♪」
「ジョンさん、あの・・・」
「おやおや〜?だ〜れもいないじゃないか〜不用心だなぁ〜」
「・・・・・・」
我慢、我慢・・・
「お〜ディラン君、タイガ君!おじいちゃんでちゅよ〜ん♪」
スズナのお父さん、ジョンさんは”いないいないばぁ”をしたり、”たかいたかい”をしたりして、子供達をあやしている。
「いやぁ〜まったくもってスズナにそっくりでかわいいなぁ〜
お前達、父親に似なくてよかったな!ははははは!!!」
肌とか髪は僕似なんだけどな・・・まぁ、いっか。
「幸せな人生送るんだぞ〜ママみたいにどこぞのバカに泣かされるようなことがあったら、すぐにおじいちゃんに言うんだぞ〜?」
・・・だからそれは・・・!
・・・はぁ、言っても無駄なんだろうな・・・
夢中になって子供と遊ぶジョンさんを尻目に、僕は先の二人にもらった出産祝いをしまおうとした。
それと同時にジョンさんは立ち去ろうとしていたが、ふと立ち止まり、
「・・・プレヴィ君。言うのが遅くなったが・・・スズナを頼んだぞ。」
そう言って逃げるように、耳を真っ赤にして振り向きもせずに出て行った。
僕はしばらくあっけに取られたが、ジョンさんの背中に聞こえないようにつぶやいた。
「もちろんです。・・・お義父さん。」
「ただいまーー!!あ〜気持ちよかった!」
夕方になってようやくスズナが帰ってきた。
髪が濡れてるけど・・・もしかして・・・?
「アイシャ湖で泳いできちゃったよ!」
「やっぱり・・・。大丈夫?」
「平気だよ!体軽くなったし!気持ちよかったよ!」
そう言って元気に笑うスズナがとても愛しく、こうして彼女を抱きしめられる幸せを僕はしみじみとかみしめた。
色々な人たちに支えられて、僕たちは今生きているんだね。
今日は改めてそれに気づかされた日だった。
スズナ、明日は一緒に温泉に行こう。
そして、今までの二人の思い出をたどっていこう。
僕は今、とても幸せだよ・・・。
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