生まれて初めて恋人ができた。
生意気で、強引で、おせっかいで、どうしようもないやつに見えるけど・・・
私にはかけがえのない人になった。
彼は私に、前へ踏み出す勇気をくれた。
その勇気をどう生かすか、一人でじっくり考えてみた。
そして、一つの結論に達した。
私の気持ちはもう彼に向いているけれど、やっぱりけじめをつけようと思う。
本当に、心からミンソンの恋人になるため。
「スラスト君、ちょっといい?」
仕事をしているスラスト君の後ろから声をかけると、変わらぬやさしい笑顔を向けてくれた。
「あれ?サクラちゃん。久しぶり。どうしたの?」
「ちょっとお話したいことがあるの。今からいいかな?」
「いいよ。じゃあ・・・タラの港に行こうか。」
気持ちにけじめをつける。
スラスト君に、私の抱えていた気持ちを伝えて、何もないままでミンソンの恋人になる。
スラスト君は、初恋の人。
ミンソンは・・・今、好きな人。
私だけを愛してくれている彼の気持ちに応えるため、
サクラ・プリシュケ、今から失恋します。
そう思っても今は緊張などしない。
気持ちに応えてもらえるかどうか、不安があるわけじゃないし、
私の気持ちはもう、スラスト君に向いているわけではないから。
タラの港の船着場にスラスト君に背を向けて立ち、潮風を浴びる。
なんて穏やかなんだろう・・・
「何?話って。」
「あのね・・・」
一呼吸おいて話し始めた。
「私、学生の頃スラスト君のことが好きだったの。」
「えっ・・・そ、そうなんだ・・・。」
(あ、こういう反応するんだ。)
と、落ち着いた気持ちで彼の声を聞く。
「えっと・・・僕は・・・」
「あっ!でも誤解しないで。ただ、気持ちにけじめをつけたかっただけなの。
今は・・・ちゃんと、こ、恋人がいるから・・・。」
「あ、そうなんだ・・・びっくりしたよ。」
「驚かせてごめんね。」
「恋人ができたんだ?おめでとう。もしかしてこの間の背の高い・・・?」
「あ、うん。そう・・・あの時はごめんね。
あいつ本当に頭に血がのぼると何言うか分からないから・・・」
「いや、気にしてないよ。
彼みたいに本当にサクラちゃんのこと好きな人にめぐりあえて、本当に良かったね。」
打ち寄せる波のように、心地よく髪をたなびかせる潮風のように、スラスト君は穏やかに笑う。
私も、微笑み、少し頬を染めながら頷く。
(あ、来た来た。サクラ!こっちこっち!)
(あの、さ・・・。手ぇつなぎたいな〜・・・なんて・・・)
(サクラと一緒にいられて、俺すっげー幸せ!)
(もう帰っちゃうの・・・?もっと一緒にいようよ・・・。)
私といる時の、ミンソンの表情の一つ一つが浮かぶ。
なんだか・・・会いたくなってきちゃった・・・。
「あ、サクラちゃん、顔が赤いよ。」
「えっ!?嘘!?」
「もしかして彼の事思い出してたとか?まったく熱いなぁ〜」
「・・・・・・。」
変な感じ。
ずっと憧れていた人に、恋人との仲をからかわれるなんて。
こんなの恥ずかしくて耐えられないと思ってたのに、
思ったより幸せな気分になれるんだ・・・不思議。
「本当に彼の事が好きなんだね。」
そう、あいつは私を本当に大事にしてくれるし、
私もあいつが、ミンソンが好きだから・・・。
思い出すだけで頬が熱くなる。
「うん・・・本当に、好き。」
こんなこと、まだあいつにはとても言えないけど・・・
「これで、ちゃんと胸を張ってミンソンの恋人ですって言えるわ。
もう、なにも思い残すことはない。今日はどうもありがとう、スラスト君。」
「いやぁ、僕なんて。それにしても・・・良い笑顔するようになったね、サクラちゃん。」
「えっ!?」
「素敵な彼のお陰かい?ははは・・・」
「そっ、そんな・・・」
「お幸せに。」
「ありがとう。・・・スラスト君も。」
(じゃあ、またね。)
手を振ってタラの港を後にする。
ずっと憧れていたあなたは、やっぱり素敵な人でした。
これからは人生の先輩として、よろしくお願いします。
そしてこれからの私は、本当に好きになった人と共にこの人生を歩んでいく。
ミンソン、今、どこにいるの・・・?
タラの港に一人たたずむ、スラスト・コイスはため息をついた。
「まったく・・・学生時代に言ってくれてたらなぁ〜・・・」
「へ〜スラストさんもサクラが好きだったんだ〜」
「ん?」
彼の頭上から、聞き覚えのある明るい声が聞こえた。
頭上・・・つまりザカーの塔の上から。
「可愛いもんなぁ〜サクラvvでも、残念でしたね!スラストさん♪」
「あれ・・・君、ずっとそんな所にいたの?」
「はい〜!ずっといました♪ここは俺の特等席ですんで!」
「あ、じゃあ聞かれちゃってたんだ?今の。」
「そりゃあもう、バーーーーーーーーッチリ!!
スラストさんのセリフも、サクラの俺に対する愛のセリフも!ははははは!!」
「はは・・・参ったなぁ・・・。」
「御心配なく!サクラは俺が必ず幸せにしますから!」
ミンソンは今、どこにいるのかしら。
なんだか今すぐ、あなたに会いたい。
「俺も・・・俺もサクラがだいっっ・・・好きだーーーッ!!!」
・・・ただ会いに行ったらきっとまたあいつは調子に乗るから、
手料理を持って会いに行こう。
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