「伝えたい気持ち」



「マミ、あの、さ・・・。」

「どしたの?」

それは、いつものようにアイシャ湖で恋人同士のデートを楽しんでいた、ある日のこと。

「目、つぶれよ。」

「へっ!?」


パシャン、と水の音が静かに響く。


「へっじゃねえよ・・・。俺たちも結構長く付き合ってるしさ・・・その・・・」

「やっ、やだ!」

「なっ・・・!やだとは何だよ・・・!」

「やだ!そういうこと言うヘルムート、何かやだよ!」

「マミ!」

そう叫ぶとあたしは、呼び止める声も聞かずにダッシュでアイシャ湖を飛び出した。

髪もまだ乾ききっていないけれど、いてもたってもいられなくなった。

外にいたらヘルムートに会っちゃうかも。

でも、家にいたらあいつが訪ねてくるかもしれない。


(・・・どうしよう・・・)


行くあてもなく、ショルグ闘技場の裏でひざを抱えて座った。

こんなことをスズナに相談したら・・・あの子の返事は大体想像つく。


(ヘルムート君の気持ちも、わかってあげなよ。)

だって・・・あたし達ずっと友達だったしさ・・・

あたし、まだ恋人の雰囲気に慣れないんだもん。


(マミちゃんのこと好きで言ってくれてるんだよ?)

わかってるけど・・・あたしはまだそんな・・・

好きなら待ってくれたって良いのに・・・なんて。


(マミちゃんだって、ヘルムート君が好きなんでしょ?)

そ、そりゃ、まあ・・・ね。



(キスくらい、大した事ないよ!)


「大した事なのよあたしにはーーーーーー!!!」



「何叫んでんだ?お前。」

「へっ、ヘルムート・・・な、なんでここに・・・?」

「訓練、してちゃ悪いか?」


思わず大声を出したため、予想外にも早く見つかってしまった。

目を合わせるのも気まずくなって、うつむいて首を横に振る。

う・・・沈黙がきまずい・・・。

なんとか言って欲しいような、このまま立ち去って欲しいような・・・

あたしは黙ってうつむく。



こういう時、意外と大人なのがこいつなのだった。


「マミ。」

「・・・何?」

「・・・隣、座っていいか?」


心臓が高鳴った。

別に二人っきりでいることなんてそんなに珍しくもないのに、今日は・・・あいつの顔が見られない。

視線を合わせずに首を縦に振った。


ヘルムートはあたしの隣に、いつもよりほんの少し距離をおいて座った。

その距離が・・・少しだけ寂しく感じた。



「まだ髪濡れてんじゃん。乾かさねぇとバサバサになるぞ?」

そう言ってあたしの髪に触れる。

すると、あたしの心臓は髪の毛に入ってるんじゃないかって位、頭のあたりがドキドキした。

「い、いいのよ別に!もともとバサバサだもん!」

うわぁ、あたし可愛くない・・・

わけのわからない意地をはった。

あたしの鼓動が聞こえちゃわないように、いつもよりさらに大きな声で。

勢いよく、奴の手からおさげを奪い返した。


「ふっ」って笑う声が聞こえた。

その瞬間、目をそらしているけれど、あいつの顔は見えた気がした。

目を細めて、唇の端っこをちょっと上げて、意地悪だけど、優しい笑い方。



あたしの大好きな笑顔。



その笑顔を思い浮かべたら、胸の中に暖かいものがこみ上げた。

そうよ。今更怖がることない。嫌がることなんて全然ない。

あいつなら・・・って思ってたのに。


だってあたし、ヘルムートが大好きだもん・・・!


「ヘルムート!」

「ん?」

勢いよく振り向きヘルムートの肩に腕をまわす。

スズナは『ファーストキスは甘い味だった』とか言ってたけど、

味なんて何もわからない位の、とても短いキスをした。

だってあたしには、今すぐ言葉で伝えたいことがあるから。


改めてヘルムートを見ると、呆然とした表情をしていた。

普段はどちらかと言うと無愛想で、隙なんか見せない奴だから、

こんな顔された途端、ぎゅって抱きしめたくなった。


「・・・マミ・・・」

「ヘルムート・・・あたしヘルムートのこと、ほんとに大好きだよ。」


そのあたしの言葉を聞いてヘルムートは、多分さっきと同じ顔で「ふっ」て笑った。

そして、あたしをぎゅって抱き返してくれた。


「お前、相変わらずわけわかんねぇな。なんでさっきは駄目で今は良いんだよ。」

「心の準備って奴よ!」

「俺は心の準備できてなかったぞ?今のは。」

「う・・・」


だって・・・

だってすっごく、あんたが愛しく思えたんだもん。



「でも・・・お前のそういうとこ、好き。」


今も、こんなに大好きなんだもん。

あんたはあたしの、一番の宝物だから。






スズナ。

今回はあんたの手助けも無しで、無事仲直り完了!


少しは見直したでしょ?





「なあマミ、もう一回・・・」

「や、やだ!!」

「おいおい・・・」