幸せな人生
なぁ、エリス。覚えているか? 俺と君が初めて出会った時のこと・・・ 当時国中の女性達を恋人にしていた俺に、君は贈り物をしてくれたんだったな。 最初はなんて女だと思ったよ。 ・・・だって、この俺にヴィチだぞ? ・・・ははは。覚えてないのか? そうか・・・、俺は覚えているさ。と言うより・・・忘れられないな。 あの時、君は緊張した真っ赤な顔をして俺に走り寄り、 -----これ、ジョンにプレゼント! 本当は月の花束とか、太陽の鏡とかを贈りたいが、そんな金がない。 王魚でも釣ろうと思ったが、安い木のサオではなかなか上手くいかない。 だからと言ってモタモタしていられない。 国中の独身女性がライバル。いや、既婚の女性だって・・・いやいや、それはいい。 だから、一度"恋人"のポジションを得たからといって安心できない君の気持ちが、その表情から読み取れた。 君のその表情が、何よりの贈り物だったんだ。 俺にとっては・・・。 それ以来俺は他の女性とは完全に手を切った。 君だけを見つめていたかったからな。 最初は信用していなかった? 遊んでると思ってた? ・・・くそっ、俺はお前とだけは本気だったんだぞ? まぁ、そう思われても仕方のない生き方をしていたからな、あの頃の俺は。 でも、その代償はしっかりあったんだ。 俺には、本気の気持ちの伝え方が分からなかった・・・。 “俺には君だけだよ” “君といるだけで俺は世界一の幸せ者だ。” “君の瞳に吸い込まれそうだ・・・。” そんな歯の浮くようなセリフを、幾度となくたくさんの女性達に聞かせてきた。 どんな女性だって、好きな男にそんなこと言われたら、嫌な気分にはならないからな。 そう、これが俺のテクニックなのさ。 はは・・・そう、君にはあまり言わなかったな、エリス。 俺は・・・・ 言おうとしたんだ、いつもみたいに。 “君のバラの花びらのような可愛い唇は、俺の為に”好き"と動いてくれないのかい?” ・・・笑うなよ。俺だって今となっちゃアホみたいだったと思っているさ。 でもな、あの頃は本気で言おうとしていたんだ、君に。 あぁ、言えなかったんだよ。 ------き、君の・・・ ------?どうしたの? ------君の・・・その・・・き、君の事が好きだ・・・! そう、あの時。実はそんなくさいセリフを言おうとしてたんだ。笑っちまうだろ? ・・・いつもならちょっと考えれば口をついてそういうセリフがポンポン出てくるのに、不思議だな。 君の前に行くと、途端に頭が回らなくなる。 正直参ったよ。 いつも女性をうっとりさせるのに使っていたテクニックが使えないんだからな。 君への想いに気づいた時には、既に君に完敗していた。 これじゃダメだと思ったが、君は不器用な俺も受け入れてくれた。 嬉しかったな・・・ 大事なのはムードでも、ロマンチックなセリフでもない。 どれだけ気持ちが大きいか、だよなって、分かったんだ。 俺は当時付き合った女性達とは”恋” をしていたが、”愛” を一緒に育てたいと思ったのは・・・君が初めてだったよ。 何?・・・全然別物じゃないか。 “恋”なんて人を好きになればそれがもう”恋”なんだから、誰にでもできる。 でも“愛”って言うのは、一人じゃ作れない。わかるか? だから・・・ 俺と君の、お互いを思う気持ちは”恋”。 俺と君がここまで一緒にやってきて、サクラやスズナ、グレルト達と一緒に感じている気持ちが”愛”だ。 ・・・そう。愛してるよ、エリス。 エリス・・・? エリス・・・!! 「お母さん・・・!」 「ママ・・・死んじゃ嫌だよぉ・・・」 「ママぁ・・・」 エリスの、最期の時が迫っていた。 「サクラ、あなたは強い子だから大丈夫ね?あとのことはお願いね、おねえちゃん。」 「うん・・・お母さん・・・。」 「スズナもグレルトも、お父さんも甘えん坊だから・・・あなたがしっかりしててくれるから安心だわ・・・。」 「そんなこと言わないでよ!お母さん・・・!」 「スズナ、あなたももうお母さんなんだからいつまでも甘えん坊じゃダメよ?」 「ママ・・・ユウガがね、最近首がすわるようになったんだよ?元気に歩き回る姿も見てよ・・・!」 「大丈夫。ワクトのもとからちゃんとあなた達を見守っているわ・・・。」 「やだよぉ・・・ママ・・・死んじゃ嫌だよぉ・・・。」 「グレルト、学校は楽しい?」 「うん!たくさん友達ができたんだ!ガールフレンドもいるんだよ!」 「ふふ・・・そう、みんなと仲良くね? ・・・勉強ができなくても、試合で勝てなくても良い。でも、幸せな大人になりなさい。」 「・・・うん・・・ママ・・・。」 「エリス・・・。」 「ジョン・・・今まで、ありがとう・・・」 「・・・俺の方こそ。」 「あなたと一緒にいられて、私は本当に・・・幸せ、でした・・・。」 「俺もだ・・・。」 「みんな・・・大、好き・・・よ・・・・・・」 「・・・エリス!?エリス!!!」 「ママ!!」 「ママぁ!やだぁ・・・」 「お母さん・・・!」 エリス・プリシュケ 享年23歳。 その最期の笑顔は、幸せに満ちていたという。 -----あなたと一緒にいられて、私は本当に幸せでした・・・。 -----俺もだ、エリス。・・・愛してる。 |