幼なじみ(後編)



幼なじみのグレルト君は、私の事を好きだって言う。

“カワイクない子”で有名で、無愛想な私だから、随分な物好きがいたものだと思う。


でも、グレルト君は私の笑顔が可愛いって言ってくれた。

そんなこと言われたことのない私は、真っ赤になって照れたみたいで、

それを見たグレルト君はまた“あ、可愛い!!”と言った。


・・・自分だって十分可愛い系の顔のくせに。


「変な奴。」


それがあいつの第一印象。

私が1言えば5返ってくるくらいおしゃべりで、

私を笑わせる天才。



私が笑顔になると、あいつは嬉しそうに”あ、笑った。”って言う。

それが妙におかしくて、私はまた笑う。



それが私たちの関係。



仲良くなってから、グレルト君も前に比べて学校にも来るようになった。

でもあんまりやる気はないみたいで、教科書は忘れるし、筆箱もないからノートもとれない。

「レニカちゃんvvテスト前はよろしくねvv」

「やーなこった!」

「そんな事言わないで、ね?レニカちゃんったら〜!」


友達もできずに寂しい学生生活を送っていた私に、笑顔をくれたグレルト君が・・・私は好き。



でも・・・


“成人したらすぐにデートしようね!“

あんな言い方されて、私が素直に返事できると思っているのかしら・・・

しかもみんなのいる所で・・・恥ずかしいったらありゃしないわ!


・・・でも、いくら恥ずかしいからって、ジョンさんが好きだなんて・・・

私も随分立派な嘘を作り上げたものよね。

そりゃ、本当に素敵な人だとは思っているけど。

・・・あんなあからさまな冗談、グレルト君もきっと気にしてなんかいないわよ・・・ね?





今日は成人の儀式。

すがすがしい太陽の光を浴びて、私は神殿の前で彼を待った。



「おはよ、グレルト君!」

「おはよう・・・」

「どうしたの?元気ないわね。」

「レニカちゃんのこと考えてたら、心配で眠れなくなっちゃった・・・。」


あまりに恥ずかしい事を言うので、さすがに顔が赤くなるのを感じた。

もしかして、本気で私がジョンさんのこと好きだと思ってるのかしら・・・?


「・・・ばっかねぇ・・・。」

「だって・・・パパが僕の魅力をアピールしなきゃ駄目だって言うんだ。」

「ちょ、ちょっと!ジョンさんに相談したの!?」


・・・恥ずかしい・・・まぁ、ジョンさんなら私の冗談もわかってくれると・・・思うけど。

それにグレルト君の魅力なんて、今さらアピールしなくても私は・・・わかってるつもりだけど・・・。


いつの間にか抜かされていた身長の差で、うつむく彼の表情も見える。

少し目を潤ませたグレルト君は、意外なことをハッキリと言った。



「僕、人に自慢できることって、誇れることって、

“レニカちゃんがすごく好き”って事くらいなんだもん。」



「・・・はいぃ?」

驚いてますます赤くなる私の顔にも気づかずに、彼は強い口調で続けた。


「レニカちゃんを好きな気持ちなら、誰にも負けない!

でも・・・でもそれだけじゃ、強くて真面目でカッコいいパパには、勝てないんだよ・・・。」


ますますしゅんっとするグレルト君。

も、もしかして、私のせいでこんなに泣きそうな顔してるの・・・?

ま、まさかそんなに気にするとは・・・


だって、私の気持ちも伝わってると思ってたんだもん。長い付き合いだし・・・

でも、言葉にしなきゃ伝わらない事って、やっぱりあるみたい。



「あぁ、もう・・・これだから幼なじみは・・・!」

「・・・え?」

照れくさいから目を合わせないどころか、グレルト君に背中を向けた私は、

それでも彼には聞こえるよう、ハッキリと言った。


「今さら好きだなんて言えるわけないじゃない!」


「えぇ?パパに?」

「ちーがーう!ジョンさんのことはただの冗談!

グレルト君が・・・いきなりデートしようなんていうから、照れくさかっただけよ。」

「な、なぁんだぁ〜・・・」


拍子抜けしたらしいグレルト君は、脱力して座り込んだ。

まったく、どれだけの体力使って悩んでたんだか・・・


「レニカちゃん、僕のこと好きなの?」

「う、うん・・・。」

「えへへ・・・僕もレニカちゃんが大好き!」

少し顔を赤くして、グレルト君はにこっと笑った。

それが私の好きな笑顔だから、照れくさくて目を反らした。

「ほ、ほら、成人の儀式始まっちゃうわよ!」

「うん!」


私たちは仲良く手を繋いで、神殿へ向かった。








成人の儀式が終わり、神殿を出るとグレルト君が空を見上げながら言った。

「レニカちゃん、今度は二人で神殿に来ようね!」

「・・・別にいいけど?訓練?」

「ち、違うよー!!・・・結婚式だよ!」

「け、けっこん・・・?」


大人になった途端にこんなこと言い出して・・・相変わらず気が早い奴。

でもね、グレルト君が私の笑顔を好きだって言ってくれたのと同じで・・・


「ねっ?」

「う、うん・・・グレルトが遅刻しないなら、ね。」


私も、その笑顔には弱いんだ。

でもそのことは、まだ内緒にしておこう。


「もちろん!・・・あれ、レニカちゃん。今”グレルト”って・・・」

「・・・さーーって!仕事道具でも借りに行こうかな!」

「呼び捨てにしてくれたの?ね、ねぇ、もう一回呼んで!」

「しーらないっ!」

「待ってよー!レ、レニカぁ〜!!」



グレルトと幼なじみでよかった。

きっと、誰よりも彼の事をよく知っている、最高の恋人になれるから。