幼なじみ(前編)
「僕ね、レニカちゃんが好きだよ!」 「私もグレルト君のこと、好きだよ。」 思い出すと恥ずかしくなるような、学生の頃の思い出。 僕は、幼なじみのレニカちゃんとの未来が欲しかった。 簡単な口約束で良かったんだ。 それは、成人の儀式を翌日に控えた日の夕方。 「レニカちゃん、成人したらすぐにデートしようね!」 「え、やだ!」 「えーーーっ!?僕のこと好きだって言ってくれたじゃない!」 「グレルト君のことは嫌いじゃないけど、私はもっとオトナの恋がしたいの! 幼なじみとくっつくなんてみっともないからイヤ!」 レニカちゃんは綺麗な金色の髪をなびかせて、プイッとそっぽを向いた。 唇を尖らせたその表情は、本当に気が強そうだ。 “もっとオトナの恋がしたいの!” その言葉を認めるのは怖かったが、おそるおそる僕は尋ねた。 「・・・レニカちゃん、他に好きな人がいるの?」 「・・・いるわよ。」 「だ、誰・・・?」 「・・・ジョンさん。」 「えーーーーッ!?ぼ、僕のパパ?」 な、何それ!? 一体何歳年上なんだ・・・? 慌てる僕をよそに、レニカちゃんはふわりとスカートをお姫様みたいにひるがえし、 ちょっとうっとりしたような表情で、続けた。 「そう!オトナでカッコよくて、仕事もバリバリ!私の憧れなんだから!」 「でも、パパもうすぐミッチーさんと再婚・・・」 「いいの!それでも!!」 「・・・片想いでも?」 「ううん。不倫でも。」 「ふっ、不倫!?駄目だよ! 不倫は絶対にしちゃいけないことなんだってスズナお姉ちゃんが・・・」 混乱する僕を諭すように、レニカちゃんは“ふっ・・・”とちょっと高飛車に笑って、言った。 「それも愛なら・・・美しいのよ・・・。」 「レニカちゃあん・・・」 そんなぁ〜〜〜・・・ 僕ら、将来を誓い合った仲だと思ってたのに・・・。 レニカちゃんは、とっても真面目に学校に通っていて、 いつも従弟の男の子達と遊びまわっている僕とは対照的な性格。 だけどある日、いつも皆をにらんでいる様な目つきの悪い彼女がした、 ちょっとした笑顔がとっても可愛くて、それ以来僕はレニカちゃんを好きになった。 気が合わなそうな二人だなって皆には言われたけど、 二人がデコボコだからこそ噛み合うんだと思う。 レニカちゃんもいつも楽しそうにしてくれてたのに・・・ 今さらパパがライバルだなんて・・・ 「はぁ・・・」 「どうした?グレルト。学校を卒業するのがそんなに寂しいか?」 家に帰って夕飯の後にぼーっとしている時、思わずため息が漏れた。 そのため息に反応したのが、今の僕の悩みの種、ジョンパパだった。 「パパ〜・・・」 パパはまさか自分の事で息子が悩んでいるとは思っていないようで、 いかにも父親らしい言葉をかけてきた。 「大人になったらきっとまた楽しいことがたくさんあるから、今日はもう準備して寝なさい。」 そんな落ち着いた“オトナの魅力”をかもし出す、僕の自慢のパパがこの日ばかりは憎らしい。 「それどころじゃないよー!レニカちゃんがパパのこと好きだなんて言うんだ。 パパからも何とか言ってよ〜!」 「あははは!そうかー、そんな若い娘に気に入られているんじゃ、父さんも断れないなぁ。」 「パパ!!僕、真剣なんだよ!レニカちゃんをお嫁さんにするんだー!!!」 ムキになった僕をなだめて、パパは笑ったあとに真剣な顔で言ってくれた。 「あぁ、わかったわかった。冗談だ。 そんなにレニカちゃんが好きなら、ちゃんとお前の魅力をアピールしなきゃ駄目だぞ。」 「僕の・・・魅力?」 「あぁ、お前が自信を持っていることとか、自慢できることとかだな。」 「自信・・・自慢・・・。」 「あとはお前の気持ち次第だ。いいから、今日はもう寝ろ。」 僕の魅力・・・ 自信のあること、自慢できること・・・ 学校にもあんまり行かなかったし、だからって訓練していたわけでもない。 僕の魅力って何だろう・・・。 早く見つけないと、パパにレニカちゃんを取られちゃう。 何とか見つけなきゃ・・・僕の・・・魅力。 「グレルト、早く起きなさい。」 「ん〜・・・おはよう、サクラお姉ちゃん。」 考えていたら眠ってしまったみたいだ。 ・・・そこまで自分の魅力がわからないって、悲しいなぁ・・・ 「ほら、支度して。早くしないと成人の儀式に遅刻しちゃうわよ。」 「はぁい・・・」 今日はいよいよ成人する日だ。 本来なら未来への期待に胸を膨らませているはずなのに・・・ちょっと憂鬱。 神殿の前でレニカちゃんを見つける。 昨日まであんなにそばにいた彼女の笑顔が、なんだか急に遠く見えた。 “将来を誓い合った仲”だなんて僕の思い上がりだったのかなぁ・・・? |