私の赤ちゃん。


どうも最近食欲がないと思ったら、やっぱり赤ちゃんが出来ていたみたい。

どうしよう・・・あいつにはいつ、なんて言おう・・・

なんて考えていたら、先に顔色で気づかれてしまった・・・ように思えたけどやっぱり違った。


「あれ?どうしたのサクラ。顔色よくないよ?風邪なら俺に口移しで移してくれても・・・vv」

「バカ!違うわよ!!」

「あはは♪元気みたいだね〜でも調子悪いなら無理するなよ?」


・・・もう。優しいんだか、気がきかないんだか・・・

意地悪して、あいつがお茶を口に含んだ瞬間に言ってやった。


「・・・ねぇ。私、赤ちゃんができたみたい。」

ぶはっ!!


見事にお茶を噴き出したその後のミンソンの喜びようといったらすごかった。


「ま、マジで?本当?ぜぜ絶対!?」

「・・・こんなことで嘘つくわけないでしょ。」

ミンソンの顔が、みるみる笑顔になっていくのがわかった。

「ババババンザーイ!!バ、バンザーイ!!

サ、サクラこんな硬い椅子に座ってて大丈夫!?おなか冷えちゃいませんか!?」

「な、なんでいきなり敬語なのよ・・・」

「何か食べたいものとか・・・して欲しいこととかあったら何でも言ってくださいね!

な、名前は何にしよう・・・男かな?女かな?あぁ!もうどっちでもいいや!!

っていうか・・・ていうかさぁ・・・!!」

「なぁに?」

「俺と・・・サクラの子・・・」


ミンソンはトンッと膝を床につけて座ると、私のお腹をきゅっと優しく抱きしめて言った。

「・・・サクラ、愛してる!!!」


こんなお父さんだけど安心してね、私の赤ちゃん。

あなたへの愛は、まぎれもなく本物よ。





「ね、ねぇモーティ?子供の名前はなにがいいかな?」


ソノンはテーブルに名前候補のメモをめいっぱいに広げ、

画数やらなにやら名づけについての本と数時間、ほとんど毎日にらめっこし続けている。


「ふふっ・・・ソノンったら、最近そればっかり。」

「そ、そうかな?」

「そうよ。それに女の子の名前ばかり考えて・・・男の子だったらどうするの?」

私がそう言うと、ソノンはすっと席を立ち、私のもう大分大きくなったお腹をさすりながら言った。


「・・・なんとなくね、わかるんだ。女の子だって。」

「わかるの?」

「うん。モーティにそっくりで、すっごく可愛い女の子が、

僕らの子として生まれるために今頑張って成長しているっていうのが伝わってくるんだ。

・・・変かな?・・・変だよね。」


そっか。ソノンも私と同じように感じていたんだ。

不思議だけど、わかるの。

見えるはずないけれど、見えるの。

もうすぐ生まれてくるこの子が、成長していく様子が・・・


ソノンの手の上に私の手を重ね、一緒に“その子”を撫でる。


「ううん。変じゃないよ。・・・私にも、わかるもの。」

「本当?」

「うん。・・・良い名前、つけてあげなきゃね。」

「そうだね。・・・お〜い。聞こえるか〜?」

「うふふ。ソノンったら・・・」


私のお腹に向かって声をかけると、ソノンは返事を待つように私のお腹に耳を当てる。

いつでも大歓迎だよ。私の赤ちゃん。


「えーと・・・“ソノーティ”〜」

「えっ!!??変!!!!」





「おい、マミ!いつまで訓練してんだよ!今日は早く帰れって言ったろ!?」

「だって〜まだ全然何ともないし。予定日なんて変わるもんだって!」

「そういう問題じゃねぇだろ!

巫女さんの言うことは絶対なんだよ!帰れ帰れ!!」

「えー・・・」

「えーじゃない!!第一、水に浸かりすぎてどうにかなったらどうすんだよ・・・

ほら、かーえーれ!かーえーれ!」


だって、一人で家にいても不安なんだもん。

夜にならないとヘルムートも帰ってこないし・・・

でも、良かった。ここにいれば迎えに来てくれると思ってたんだ。

思い出のアイシャ湖だもんね。



家に帰って無理やりベッドに横にさせられた。

「やだなぁ〜こわいよぉ〜凄く痛いんだって。」

「そ、そうだろうな・・・」

「鼻の穴から宝珠の果実が出てくるみたいなんだって。」

「うっ・・・」

「いつくるのかなぁ〜こわいなぁ〜・・・」


あたしがあまりに弱音ばかりはくので、ヘルムートも困ったようだった。

きゅっと私の手のひらを握る。

緊張しているのか、手のひらが汗ばんでいた。


「マミ、ごめんな。代わってやりたいけどできねぇからさ・・・」

「うん・・・大丈夫。辛い痛みじゃないはずだから。

幸せな痛みだから・・・きっと大丈夫。

でも巫女さん来るまで、ううん、産み終わるまで、手握っててね。」

「あ、あぁ・・・ここにいてやるから、安心しろ。」


ヘルムートは、おでこに優しくキスをしてくれた。


「あぁ!生まれる!!!」

「だ、大丈夫か!?すぐ巫女さんを・・・!」

「うっそ〜♪」

「・・・お前・・・」


きっと大丈夫。二人なら大丈夫。


そしてその日の真夜中、無事に新しい命が産声を上げた。

思い切り握り締めたヘルムートの手が無事ではなかったけど・・・


とにかくはじめまして!私の赤ちゃん。





「見て見てプレヴィ!ディランが・・・タ、タイガが・・・!」

「ど、どうしたのスズナ!?」

「今、何かしゃべったような気がする・・・!」

「ほ、ホント!?何て?」

「わかんない・・・」

「そ、そっか・・・また何か言うかも知れないから、待ってみよう、うん。」

「そ、そうだね!」


「「・・・・・・・・」」


「しゃべらないね・・・」

「うん・・・」

「もうお風呂にいれようか?」

「うん・・・」

「スズナ、そんなにがっかりしないで。あせらずにゆっくり行こう。」

「うん・・・そうだね。ほら、ディラン。ママと一緒にお風呂入ろう。」


「・・・まま。」


「…え・・・?」

「ん?どうしたのスズナ?ほらタイガ、お風呂の時間だよ。パパと一緒に入ろう。」


「ぱぱぁ〜」


「・・・え?」


「まま〜」


「ぱぁぱ〜」



「「しゃ、しゃべったーーーー!!!」」



「パパって!」

「ママって言った!!」

「スズナ!」

「プレヴィ〜!!」





生まれてきてくれてありがとう。

たくさんの喜びをありがとう。

あなたのためなら、パパとママはなんだってできるんだよ。

・・・本当だよ?



僕の、私の、


かわいいかわいい、赤ちゃん。